住宅や共同住宅(マンションなど)を改修して、ゲストハウスや民泊などの旅館業を始める場合、単に旅館業法の許可を取るだけではなく、建物の安全基準を定めた建築基準法や消防法などの厳しい基準をクリアする必要があります。
特に、既存の住宅から用途変更(コンバージョン)を行う際、大きな壁となるのが「階段」の規定です。ここでは、国土交通省や各自治体が公表している建築基準法施行令などの公的な根拠をもとに、旅館業における階段の幅や関連する構造の要件について解説します。
1. 旅館業における「階段の幅と寸法」の基本要件
階段の幅や寸法については、建築基準法施行令第23条で定められています。旅館・ホテルなどの宿泊施設は、不特定多数の人が利用し、夜間に就寝するため、一般の住宅よりも安全基準が厳しく設定されています。
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階段の基準は、「その階段を利用する直上階の居室(客室など)の床面積の合計」によって2つのパターンに分かれます。

パターンA:直上階の居室床面積の合計が200㎡以下
一般的な戸建て住宅を転用するような小規模な施設は、多くがこちら(令23条1項4号)に該当します。
- 階段および踊り場の幅:75cm以上
- 蹴上げ(段差の高さ):22cm以下
- 踏面(足を踏み入れる奥行き):21cm以上
【要注意】一般住宅との寸法の違い 一般的な住宅の階段基準は「幅75cm以上、蹴上げ23cm以下、踏面15cm以上」これは幅が75cmあっても旅館業の基準(蹴上げ22cm以下・踏面21cm以上)を満たさないケースが多い。この場合、階段の架け替えやステップの調整が必要になる場合があります。
パターンB:直上階の居室床面積の合計が200㎡を超える場合
中~大規模な宿泊施設の場合は、避難時の安全性を高めるため寸法がさらに厳しくなります(令23条1項3号)。
- 階段および踊り場の幅:120cm以上
- 蹴上げ:20cm以下
- 踏面:24cm以上
※なお、階段の幅を測る際、安全のために設置された手すりがある場合は、「手すりの幅10cmまでは(階段の幅に)ないものとみなす」という緩和規定あり(令23条3項)。
※階段の踏面、蹴上、角度などの規格についての詳細はコツらの記事をご覧ください。
https://fujino-gyosei.jp/kaidanryokan/
2. 両側に部屋がある場合(中廊下)の注意点
ご質問にある「廊下の両側に客室があるような場合」は、階段の幅に加えて「廊下の幅」に関する規定(建築基準法施行令第119条)が関わってきます。
その階の居室(客室)の床面積の合計が200㎡を超える場合、避難経路となる廊下の幅は以下のように定められています。
- 両側に居室がある廊下(中廊下):1.6m以上
- 片側にしか居室がない廊下(片廊下):1.2m以上
ここからが重要です。 国の法律(建築基準法)では階段の幅は前述の第23条(120cmまたは75cm)で決まりますが、各自治体が定める「建築基準条例」によって独自の上乗せ基準が設けられている場合があります。 例えば、神奈川県などの一部の自治体の条例では、「客室用の廊下(1.6mまたは1.2m)から地上へ通じる直通階段のうち、最低1つは階段の幅も1.2m以上にしなければならない」といった厳しい規定を設けていることがあります。両側に部屋を設けるような規模の建物を計画する際は、必ず管轄する自治体の建築指導課等で「条例による階段幅の規定」を確認してください

3. 3階建ての建物を転用する際に必須の「竪穴区画」
2階建てまでは問題になりにくいですが、3階建ての住宅や共同住宅を旅館業に用途変更する場合、「竪穴区画(たてあなくかく)」という非常に重要な防火上の要件が発生します(建築基準法施行令第112条)。
竪穴区画とは?
火災が発生した際、煙や炎は階段やエレベーターシャフトなどの縦の空間(竪穴)を伝って、あっという間に上層階へ広がります(煙突効果)。これを防ぐため、階段室を間仕切り壁や防火戸などで他の空間から完全に囲い、煙を遮断する構造が「竪穴区画」です。

2019年の法改正と竪穴区画の関係
以前は、3階建ての建物を旅館にする場合、原則として建物全体をRC造などの「耐火建築物」にする必要があり、木造戸建てからの転用は事実上不可能でした。 しかし、2019年(令和元年)の建築基準法改正により、以下の条件を満たせば耐火建築物にしなくても旅館業が営めるようになりました。※これにより準防火地域内の準耐火木造の建物で旅館業が可能になりました。
- 3階建てで、延べ床面積が200㎡未満であること
- 火災報知器などの警報設備を設置すること
- 階段部分を「竪穴区画」として、壁や戸で適切に囲うこと
つまり、面積の小さな3階建て木造住宅でも旅館にできるようになった代わりに、既存のオープンな階段(リビング階段など)は認められず、階段の周囲に壁やドアを新設して「独立した階段室」を作らなければならないということです。
4. 消防法における規定
階段の「幅」や「寸法(蹴上げ・踏面)」、「竪穴区画の壁の構造」などを直接規制しているのは建築基準法ですが、消防法はそれらの空間に対する「消防用設備」の設置を義務付けています。
旅館業を開始するためには、消防署の立ち入り検査を受け、多くの自治体の場合「消防法令適合通知書」を取得する必要があります。
- 階段や廊下などの避難経路に、誘導灯や非常用照明設備を設置すること。
- 竪穴区画を設けた階段室や各客室に、自動火災報知設備(特定小規模用など)を適切に配置すること。
- 階段の形状や区画を変更した結果、煙の溜まり方が変わり、火災報知器の増設が必要になるケースが多いため、図面ができた段階で早めに管轄の消防署(通常は予防課)へ相談することが不可欠です。

旅館業階段関係まとめ
住宅や共同住宅から旅館業へ用途変更する場合の階段のポイントは以下の3点です。
- 寸法の罠: 階段の幅(75cmまたは120cm)だけでなく、蹴上げ・踏面が旅館の厳しい基準を満たしているか確認する。
- 両側居室の罠: 廊下幅が1.6m必要になるような規模の場合、自治体の条例で階段幅も1.2m以上を要求されることがある。 茅ヶ崎市他 1 件
- 3階建ての罠: 延べ面積200㎡未満の3階建てを転用する場合、階段を壁とドアで囲う「竪穴区画」の工事が必須となる。
これらの法規制は建物の規模や構造、自治体によって細かく解釈が異なる場合があります。事業を計画する際は、物件を契約する前に、必ず旅館業の用途変更に詳しい建築士や行政書士に現地調査を依頼し、役所の建築指導窓口等へ事前相談を行うことを強くおすすめします。

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