特区民泊の”今”と”今後の展望”

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国家戦略特別区域法に基づく、旅館業法を特別に緩和した民泊は、「特区民泊」と呼ばれています。国家戦略特別区域法に規定された経済特区で「旅館業法の特例」として行われる特別な宿泊営業形態です。

通常民泊の許可といえば、旅館業法上のホテル、旅館、簡易宿所の許可が一般的ですが、特区の指定を受けた地域については、旅館業法の規定によらず、特区法に基づく独自の許可基準(認定基準)により、旅館業同様の営業許可を取得することが可能です。

法的には「外国人の滞在ニーズへの対応として旅館業法の規定を適用除外」とし、旅館業法の許可に類似した国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業の認定を受けるといわゆる「特区民泊」となり営業できるわけです。

(参照条文)
<国家戦略特別区域法>

第十三条 国家戦略特別区域会議が、第八条第二項第二号に規定する特定事業として、国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(国家戦略特別区域において、外国人旅客の滞在に適した施設を賃貸借契約及びこれに付随する契約に基づき一定期間以上使用させるとともに当該施設の使用方法に関する外国語を用いた案内その他の外国人旅客の滞在に必要な役務を提供する事業(その一部が旅館業法(昭和二十三年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する旅館業に該当するものに限る。)として政令で定める要件に該当する事業をいう。以下この条及び別表の一の四の項において同じ。)を定めた区域計画について、第八条第七項の内閣総理大臣の認定(第九条第一項の変更の認定を含む。以下この項及び第九項第二号において「内閣総理大臣認定」という。)を申請し、その内閣総理大臣認定を受けたときは、当該内閣総理大臣認定の日以後は、当該国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業を行おうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、その行おうとする事業が当該政令で定める要件に該当している旨の都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市長又は区長。以下この条において同じ。)の認定(以下この条において「特定認定」という。)を受けることができる。

当初は、東京都大田区に始まり、次いで大阪で開始されましたが、開始から2年目に入り、ジワリジワリと着実に浸透してきています。

さて、住宅宿泊事業法は成立したものの、旅館業法改正・緩和は延期となり、今、再び特区民泊が注目されています。特に日本初の民泊特区である東京都大田区は、施行以来6泊7日を堅持していますが、2泊3日に緩和されるか否かは全国が注目しています。今回は、特区民泊の”今”と”これからの展望”についてお話いたします。

1.特区民泊の沿革

❶平成25年12月 国家戦略特別区域法成立(平成二十五年十二月十三日法律第百七号)

❷平成26年5月1日 国家戦略特別区域を定める政令が公布・施行され、大田区など18の自治

 

体が国家戦略特別区域として定められました。
当初、政令で定められた区域は、

  1. (東京圏)千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大田区、渋谷区、千葉県成田市、神奈川県
  2. 新潟県新潟市
  3. (関西圏)京都府、大阪府、兵庫県
  4. 兵庫県養父市
  5. 福岡県福岡市
  6. 沖縄県
  7. のちに、北九州市、秋田県仙北市が追加

❸平成27年10月20日大田区

特区認定 大田区が国から「旅館業法の特例」として「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業」の実施区域として認定
区の特定認定を受けた者が、大田区の実施地域において、海外からの観光客やMICEへのビジネス客等の滞在に適した施設に係る外国人滞在施設経営事業を行う。

(※MICEとは、Meeting(会議・研修)、Incentive(招待旅行、travel, tour)、Conference(またはConvention)(国際会議・学術会議)、Exhibition(またはEvent)(展示会)のことです。)

❹平成27年.10.27 大阪府で民泊条例可決

❺平成27年12月7日 東京都大田区で民泊条例可決→翌28年.1末施行、2月1日から申請受付。全国発の「特区民泊制度がスタート」

❻平成28年1月15日 大阪市民泊条例可決

❼平成28年10月31日 国家戦略特別区域法施行令改正

 国家戦略特区と特区民泊制度

※用語   国家戦略特別区域とは?

日本経済再生本部からの提案により安倍内閣が成長戦略の柱として、国家戦略特別区域法2条で地域振興と国際競争力向上を目的に規定された経済特区。

時代遅れや陳腐化した制度・規制を一部の地域で実験的に変更(最近では「岩盤規制」といっています。)、成果が出たら、法律改正などして日本全国に広げていく制度 。

つまり、民泊と特区は、先に可決した民泊新法「住宅宿泊事業法」の社会実験であったともいえるのです。

特区民泊の概要

 

2.特区民泊の実施地域(2017.7現在)

 

現在、特区民泊が実施されているそれぞれの自治体の実施状況は以下のとおりです。

 
<大田区>
平成27年10月20日区域計画認定
平成27年12月7日関連条例制定
平成28年1月25日東京都都市再生分科会(関連規則・ガイドライン決定)
平成28年1月29日事業者受付開始
平成28年月12日事業開始(2件認定)
平成29年3月27日時点:認定33施設117居室(申請38施設134居室)・27事業者(うち個人7人)・滞在実績:590人(うち外国人363人)
 
<大阪府>

平成27年10月27日条例制定
平成27年12月15日区域計画認定(※住居専用地域においても事業実施可能な5自治体を含む、33自治体で実施)
平成28年4月1日事業者受付開始
平成28年5月19日池田市を、上記計画に追加
平成2812月20日条例改正(2泊3日)
平成29年3月27日時点 ・認定4施設6居室(申請4施設6居室)・4事業者(うち個人1人)・滞在実績:63人(うち外国人57人)

<大阪市>

平成28年1月15日関連条例制定
平成28年4月13日区域計画認定
平成28年10月31日事業者受付開始
平成28年12月13日条例改正(2泊3日)
平成29年3月27日時点 ・認定48施設95居室(申請68施設151居室)・40事業者(うち個人11人)・滞在実績:134人(うち外国人114人)

<北九州市>
平成28年10月4日区域計画認定
平成28年年12月9日関連条例制定(2泊3日)
平成29年1月事業受付開始

3.特区民泊のメリットとデメリット

特区民泊のメリット

❶設備投資コストの節約!

設備面で旅館業法上は許可基準を満たしていないような物件であっても、条例で定める基準を満たすと旅館業法と同様の営業ができるということになります(設備については、旅館業法上の営業許可である簡易宿所はトイレなど複数の設置を基本としていますが、特区民泊は原則として単数でよいため、住宅からの転用が容易です)。

❷建築基準法上の用途変更が不要

100㎡以上の住宅を旅館にする場合、建築基準法上の用途変更の確認申請が必要になります。建築・不動産関係以外の方には馴染みがないかもしれませんが、用途変更の申請は、かなり厳しく、簡単にいうと建築確認を取り直すということで、つまり、別の用途として、当時の法令に適合することを再度確認するわけですが、建設から年月が経っている建物では、かなりの費用がかかるために、マンションやオフィスビルを転用する際に大きなハードルになっていて、つまりは、ホテル旅館業の大きな参入障壁ともいえます。

しかし、特区民泊は、住宅をそのまま住宅としして使用するということなので、用途変更せずに「住宅のまま」ビジネスを始められます。これは非常に大きなメリットです。もちろん将来的に住宅に戻すことも、用途変更してしまう場合に比べて容易ですので、イグジット(出口戦略)の幅が広がります。

❸宣伝チャンネルの拡大

特区民泊は、正式な営業許可ですから、Airbnbなどの民泊サイト以外にも、booking.com(世界最大の宿泊サイト)などにも掲載可能で、民泊以外の客層(ホテル需要)もターゲットにできます。

※参考:当事務所取扱物件(個人での特区民泊申請第1号)
 (話題の大田区4号認定物件(当事務所申請物件)KOMINKA。日本人も大歓迎とのこと。ご予約はこちら☞http://www.booking.com/hotel/jp/kominka.ja.html
 

特区民泊のデメリット

❶最低宿泊日数の制限 2泊3日(6泊7日)以上

特区法デメリットについては、それほど多くありませんが、6泊7日の最低宿泊日数が大きなデメリットでした(施行令で規定)。

ただ、「2泊3日」に短縮が決定しましたので、日数を短縮した大阪では、これは完全に解消されています(※こちらの記事にまとめています『国家戦略特区諮問会議 特区民泊2泊3日 正式決定!!』 )。

※2泊3日という線は、宿泊ビジネスにはきわめて利益性が高い日数で、多くの旅館は、1泊2日の週末需要は過剰なほどありますが、平日は埋まらなく、結果的に年間稼働率が低くなっています。つまり、宿泊日数2泊3日は、単純に考えると、1泊2日に比べて、利益を2倍にする効果があるといえます。2泊3日で困るのは、稼働率が90%を超えるような一部のホテルだけで、贅沢な悩みといえます。

4.特区民泊の最近の動きと今後の展望

2017.7月現在、先の国会で旅館業法改正案が可決されず、旅館業法の規制緩和がストップしています。また、住宅宿泊事業法は成立したものの、施行までは相当の期間があり、実質的には合法民泊は、旅館業法の正式許可しかできない状況となっています。法律レベルの規制緩和は、国の動きがないと不可能なので、おそらくは、特区の活用ががぜん注目されてます。そんな中で、特区ついては、最近3つの動きがありました。

❶新潟市

20175.22に政府が新潟市を特区認定、2017夏にもスタート予定。 「田園型」つまりファームステイを念頭に置いているようです。

※参照:新潟日報記事

❷千葉市

千葉市は2017.6.26、特区民泊を行うことを公表 千葉市公表資料。若葉区と緑区の一部の区域において行うこととし、最低宿泊日数は2泊3日以上、家主が同居するいわゆるホームステイ型の民泊は不可とするなどの内容で、ば今年12月中の事業開始を目指す。

※参照(仮称)千葉市国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例(案)の概要について
「(仮称)千葉市国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例(案)」の概要に関するパブリックコメント手続の実施について

❸大田区

大田区松原区長が2017.6.28の記者会見で、「多くの事業者から要望がある。安全・安心を担保しつつ、今後のあり方を検討したい」と発言、最低宿泊日数の短縮に言及しました(日本経済新聞報道より)。

総評

旅館業法の緩和は、前回の記事(規制改革会議答申の解説)でも書きましたが、ホテル・旅館の統合や営業規模の緩和が焦点となっています。しかし、住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行とセットと思われますが、今国会では、住宅宿泊事業法のみがなんとか成立し、加計・森友問題の影響で国会は荒れに荒れ、旅館業法に関しては、規制改革推進会議が旅館義用法規制の緩和に対する答申は行ったものの、閣議決定、法改正に至らず、時間切れ。次期国会での継続審議となりました。

民泊解禁には半年~1年の空白期間ができてしまったわけですが、特区民泊はこの空白期間を埋めるための、恰好の制度であるといえます。

既に特区認定を受け、条例が施行されている大田区にとっては、区の意思のみで、営業日数の短縮を行うことができますから、観光資源では他の区に比べてツールの少ない大田区が緩和に踏み切るのは、時間の問題ともいえるでしょう。

そもそも、2泊3日という日数は、絶妙な設定であり、宿泊ビジネスにはきわめて利益性が高い日数です。多くの旅館(特に観光地)は、1泊2日の週末需要は過剰なほどありますが、平日は埋まらなくでガラガラな場合が多く、結果的に年間稼働率が低くなっています。宿泊日数2泊3日は、倍の宿泊日数が担保されるわけですから、つまり。単純に考えると、1泊2日に比べ、利益を2倍にする効果があるといえます。2泊3日で本当に困るのは、稼働率が90%を超えるような一部のホテルだけで、これは贅沢な悩みともいえます。

したがって、大田区の緩和が実現すれば、飛躍的に重要が伸びると考えられますし、また、住居専用地域での実施についても、行政の管理という点では直接営業許可を出しますから事業者の事業の把握が容易で、事業者にとっても、180日規制の民泊新法の届出制よりもメリットがありますから、ひょっとすると、前述の他の自治体も追随し条例制定に踏み切る可能性も出てくるかもしれません。

今後の大田区の動向を、ますます注視する必要があります!

参考:特区民泊に関する法令・資料集

外国人滞在施設経営事業 関連法令等一覧

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