自動火災報知設備については、旅館業であっても、民泊であっても設置が義務化されています。自動火災報知設備は消防法に規定される消防設備であり、スプリンクラー、誘導灯、避難器具と並び、消防上、非常に重要な設備です。
自動火災報知設備は、従来は有線配線の複雑な機器のみでしたが、近年、特定小規模施設用自動火災報知設備が登場し、価格が安価で、取付も容易なことから、設置事例が飛躍的に増加しています。
しかしながら、特定小規模用の設備が使用できるか否かは、基準が法定されていないものが多く、極めて不透明であるため、今回は、Q&A方式で、わかりにくいポイントを解説しますので、資料集としてご活用ください。
Q.1 自動火災報知設備とは?
自動火災報知設備は、感知器を用いて火災により発生する熱や煙を自動的に検知し、受信機、音響装置を鳴動させて建物内に報知することにより、避難と初期消火活動を促す設備である。
出典:wikopedia
とありますが、要するに、建物の一部で火災等が発生した場合、建物全館に警報機を鳴り響かせ火災を知らせるシステムのことで、火災部分だけ警報が鳴る住宅用の火災報知機とは全く異なります。
建物ごとの設置基準については過去の記事をご覧ください。
現在入手可能な特定小規模施設用の感知器です(2023.3.16現在)詳しくはメーカーサイトなどでご確認ください。
能美防災、ホーチキより販売中です。2019年以前に人気だったパナソニックは商品リニューアル予定につき製造中止していますが、2023年3月下旬より新商品がリリース予定です。
ホーチキ https://www.nohmi.co.jp/product/gh/product/identification/index.html
能美防災 https://www.hochiki.co.jp/business/kahou/jushin_sys/tokutei/
パナソニック ※まもなく発売再開予定
Q.2 特定小規模用自動火災報知設備とは?
以前は、旅館ホテルについては、小規模建物への自動火災報知設備の設置は不要でした。 しかし、2015年4月1日より、自動火災報知設備を設置しなければならない防火対象物に延べ面積が300㎡のものが追加され、すべての施設に設置が義務化されましたが、この規制強化が、特定小規模用自動火災報知設備の普及に寄与しました。
設置の根拠となる規定は、特定小規模施設における必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等に関する省令(平成20年12月26日総務省令第156号)です。省令はこちら
これによると、小規模の建物=定義は300㎡以下については、簡易型の認定を受けた、無線連動式の特定小規模施設用自動火災報知設備の設置が可能とされています。
なお、階段の形状や建物のの用途により(EX.※特定一階段等防火対象物等、設置の有無や設置個所・個数等について、個々に異なりますので、一概に可否は判断できませんのでご注意ください。
※参考:特定一階段等防火対象物
:屋内階段が1つしかなく、原則として、1階と2階以外の階に特定用途部分(旅館業や民泊も特定用途部分です。)がある建物のことです。これに該当する建物は、煙感知器など自動火災報知設備の設置が必要なのですが、上記の300㎡以下であっても、特定小規模建物とはみなされませんので、無線連動式の自動火災報知設備の設置はできません。➡通常の有線時のものが必要。なお、階段が2系統あっても、特定一階段防火対象物となる場合があるので、個別に検討が必要です。 ※以下一部緩和等のご紹介
Q3.一般住宅の一部を民泊・旅館業転用する場合の特例は?
民泊の場合には特例があります。
●民泊(住宅宿泊事業)の場合
民泊が建物全体の半分未満で50㎡以下➡設置しなくてよい(住宅用火災警報器でよい)
民泊が建物全体の半分未満で50㎡超or建物の半分を占める場合➡民泊部分のみ自火報の設置
民泊が住宅の半分以上を占める場合➡自火報は全館に設置
●旅館業の場合
旅館業(簡易宿所や旅館・ホテル)➡全体に設置
Q4.民泊・旅館業を含む複合用途 (16項(イ)) の建物への自火報の設置は必要?|
消防法で定めるいろいろな用途の集合体を 特定用途複合防火対象物 と言いますが、これらは特定用途の防火対象物の割合がどのくらいあるかで、設置の基準が異なります。
小規模特定用途複合防火対象物 の特例
従来の考え方は以下のとおりです。
●延べ床面積が300㎡以上~500㎡未満の場合(又は500㎡以上の建物の場合)
➡民泊部分が 10分の1以下の場合、設置が必要な部分(民泊部分+管理人室等)のみに設置すれば足ります。この場合の自動火災報知設備は、原則として無線連動式の特定小規模施設用自動火災報知設備の設置が可能です。
➡民泊部分が 10分の1超の場合、建物全体に自火報を設置
ただし、平成30年6月1日公布の消防法施行令でさらに民泊、旅館業を含めて以下のように定義されています。要約すると
小規模特定用途複合防火対象物とは、令別表第一(16)項イに掲げる防火対象物のうち、同表(1)項から(4)項まで、(5)項イ、(6)項又は(9)項イに掲げる防火対象物の用途に供される部分の床面積の合計が当該部分が存する防火対象物の延べ面積の10分の1以下であり、かつ、300㎡未満であるものをいう。
特定小規模用施設用自動火災報知設備が設置できるかどうかは、建物によります(後述)
●延べ床面積が500㎡超の場合
そもそも、建物全体に自火報の設置が必要です。特定小規模施設用自動火災報知設備は設置できません。
延べ床面積1/10未満が民泊・旅館業 or 民泊部分が300㎡未満 ➡特定小規模施設用で可
上記の民泊の部分以外に、飲食店などの部分がある場合は、この緩和措置を受けられない場合があるので注意が必要です。
Q5.本来、特定小規模用自動火災報知設備の設置ができない建物の緩和は?
特定小規模施設用の自動火災報知設備は、300㎡以下の建物に設置可能ですが、通達により、原則、特定一階段等防火対象物に該当する建物(一般的には、外部に開放されていない内階段が1系統などの建物のことです。)は、無線連動式の特定小規模施設用自動火災報知設備の設置はできませんが、以下の場合は例外的に可能であるという見解が示されています。
❶一戸建ての建物の全部又は1部を民泊・旅館業利用する場合
3階以下の建物の一戸建て(アパートなどの共同住宅ではありません)については、以下の条件を満たす場合、一般の自動火災報知設備に替えて、無線連動式の特定小規模施設用自動火災報知設備の設置が可能です。
※3階建ての木造建築物をまるごと民泊や旅館業に転用するケースがよく議論されていますが、消防法や火災予防条例の規定のみならず建築基準法も関連し、自動火災報知設備の有無だけでなく(無線連動式の特定小規模施設用自動火災報知設備が設置可能な場合もあります。)、防火戸や竪穴区画(階段部分の防火区画)についても総合的に検討する必要があります。
❷共同住宅の一部を民泊・旅館業とする場合
特定小規模施設用自動火災報知設備を設置することができる防火対象物に、令別表第一(5)項イ及びロ以外の用途に供される部分が存しない同表(16)項イの用途に供される防火対象物で、延べ面積が300㎡以上500㎡未満のもの(同表(5)項イの用途に供される部分の床面積が300㎡未満のものに限る。)を追加する。
出典 消防法施行規則等の一部を改正する省令等の参考資料の送付について H30.6.1 消防庁予防課事務連絡より抜粋
https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/items/180601_yobo_jimu1_.pdf
原則として500㎡以上の延べ床面積の共同住宅(マンション、アパート)については、特殊な場合を除き、全館に自動火災報知設備が設置してありますが、500㎡未満の共同住宅の一部を民泊・旅館業に転用する場合は、ある程度の緩和措置があります。
●500 ㎡未満の共同住宅の一部を旅館・ホテル等として利用する防火対象物(旅館・ホテル等の部分が300 ㎡未満のもの➡ 無線連動式の特定小規模施設用自動火災報知設備の設置が可能
( 平成30年3月の 特定小規模施設における必要とされる防火安全性能を有する消防の用に供する設備等に関する省令(平成20 年総務省令第156 号)の一部改正により緩和されました。ただし、あくまでビル全体が共同住宅となっていますので、これ以外の組み合わせの複合用途の建物については、この緩和は受けられないものとされています。)
ただし、建物には5項イ(民泊、旅館業)と5項ロ(共同住宅)に限定しているため、これ以外の用途の部分がある場合は、緩和の対象となりません。
参考|特定小規模施設用の自動火災報知設備に戸数(個数)の制限がある。
2020.1現在、無線式の標記の自火報については、設置個数に制限があり、16個のものが認可された製品の最大とされています。したがって、部屋数が多いなどで16個超の設置個所必要な場合、特定小規模施設用は使用できず、通常の有線式のものの設置を行うこととなります。
※特定小規模用の無線連動式の自動火災報知設備は、自治体により、消防設備士でなくとも設置できる場合がありますが、消防署とのやり取りには専門知識が必要であり、専門の防災業者(消防設備士)、工務店等に依頼することをおすすめいたします。また、取付、機種選定については、防災業者、メーカー、管轄消防署にご確認ください。
参考となる消防法令関係の過去記事
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