ホテルや旅館、簡易宿所については、各法令で、大まかには以下のような規制があります。
建築基準法 | 消防法 | 旅館業法 | ||
目的 | 建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準 | 火災の予防、火災又は地震等の災害による被害を軽減 | 旅館業の業務の適正な運営の確保、公衆衛生の向上に寄与すること | |
規 制 | 建築物 | 主要構造部の防火制限、防火 区画(防火戸)、内装制限等 | - | 一室当たりの床面積 |
設備等 | 排煙設備、非常用照明装置、 非常用エレベーター等 | 建築物に設置する消防用設備 等(例えば、消火器、自動火災報知設備、誘導灯等) | 換気、採光、照明、防湿及び清 潔その他宿泊者の衛生確保に 必要な設備、玄関帳場の設置 | |
ソフト面 の対策 | - | 建物の防火管理
●防火管理者の選任 ●消防計画の作成、消防訓練の実施) | 宿泊者名簿を備えること | |
許可等 | 建築物を建築(増改築、大規模改修を含む。)しようする場合、建築主事等による建築確認を受けなければならない。(ホテル等への用途変更も同様) | 建築主事等による建築確認において、管轄の消防長又は消防長の同意を得なければならない。(ホテル等への用途変更も同様) | 旅館業を経営しようとする者は、 都道府県知事等の許可を受けな ければならない。 |
また、消防法上の「特定防火対象物」にあたりますから、もちろん許可取得時には、自動火災報知設備や誘導灯の設置などが必要となりますが、そのほか、ソフト面でも必要な要件があります。概括的には、
❶防火管理者の設置
❷消防計画の策定
❸消防訓練
❹防火設備の点検
等が必要となります。
1.防火対象物とは?
※用語 特定防火対象物:防火対象物とは、不特定多数の人に利用される建造物等のことであり(消防法施行令別表第一に規定)、このうち「多数の者が出入りするものとして政令で定めるもの」として消防法第17条の2の5に定められている防火対象物で具体的には、以下のとおりです。
消防法施行令 別表第1 平成27年4月1日現在
(1)項 | イ | 劇場等 | 劇場、映画館、演芸場又は観覧場 |
---|---|---|---|
ロ | 公会堂等 | 公会堂又は集会場 | |
(2)項 | イ | キャバレー | キャバレー、カフェ、ナイトクラブ その他これらに類するもの |
ロ | 遊技場 | 遊技場又はダンスホール | |
ハ | 性風俗営業店舗等 | 風営法に規定する性風俗関連特殊営業を営む店舗等 | |
ニ | カラオケ等 | カラオケボックスその他遊興のための設備又は物品を個室(これに類する施設を含む。)において客に利用させる役務を提供する業務を営む店舗で消防法施行規則第5条第2項で定めるもの | |
(3)項 | イ | 料理店等 | 待合、料理店その他これらに類するもの |
ロ | 飲食店 | 飲食店 | |
(4)項 | 百貨店等 | 百貨店、マーケツトその他の物品販売業を営む店舗又は展示場 | |
(5)項 | イ | 旅館等 | 旅館、ホテル、宿泊所その他これらに類するもの |
ロ | 共同住宅等 | 寄宿舎、下宿又は共同住宅 | |
(6)項 | イ | 病院等 | |
ロ | 自力避難困難者入所施設等 | ⑴ 老人短期入所施設、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム ⑵ 救護施設 ⑶ 乳児院 ⑷ 障害児入所施設 ⑸ 障害者支援施設 | |
ハ | 老人福祉、支援施設等 | ⑴ 老人デイサービスセンター、軽費老人ホーム(ロ⑴に掲げるものを除く。)、老人福祉センター、老人介護支援センター、有料老人ホーム等 ⑵ 更生施設 ⑶ 助産施設、保育所、幼保連携型認定こども園、児童養護施設、児童自立支援施設、児童家庭支援センター等 ⑷ 児童発達支援センター、情緒障害児短期治療施設等⑸ 身体障害者福祉センター、障害者支援施設等 | |
ニ | 幼稚園等 | 幼稚園又は特別支援学校 | |
(7)項 | 学校等 | 小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、高等専門学校、大学、専修学校、各種学校その他これらに類するもの | |
(8)項 | 図書館等 | 図書館、博物館、美術館その他これらに類するもの | |
(9)項 | イ | 特殊浴場等 | 公衆浴場のうち、蒸気浴場、熱気浴場その他これらに類するもの |
ロ | 一般浴場等 | (九)項イに掲げる公衆浴場以外の公衆浴場 | |
(10)項 | 駅舎等 | 車両の停車場又は船舶若しくは航空機の発着場(旅客の乗降又は待合いの用に供する建築物に限る。) | |
(11)項 | 神社等 | 神社、寺院、教会その他これらに類するもの | |
(12)項 | イ | 工場棟 | 工場又は作業場 |
ロ | スタジオ等 | 映画スタジオ又はテレビスタジオ | |
(13)項 | イ | 駐車場等 | 自動車車庫又は駐車場 |
ロ | 格納庫等 | 飛行機又は回転翼航空機の格納庫 | |
(14)項 | 倉庫 | 倉庫 | |
(15)項 | 事務所等 | 前各項に該当しない事業場 | |
(16)項 | イ | 特定用途の複合 | 複合用途防火対象物のうち、その一部が(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項又は(九)項イに掲げる防火対象物の用途に供されているもの |
ロ | 非特定用途の複合 | (十六)項イに掲げる複合用途防火対象物以外の複合用途防火対象物 | |
(16の2)項 | 地下街 | 地下街 | |
(16の3)項 | 準地下街 | 建築物の地階((十六の二)項に掲げるものの各階を除く。)で連続して地下道に面して設けられたものと当該地下道とを合わせたもの ((一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項又は(九)項イに掲げる防火対象物の用途に供される部分が存するものに限る。) | |
(17)項 | 文化財 | 重要文化財、重要有形民俗文化財、史跡等 | |
(18)項 | アーケード | 延長五十メートル以上のアーケード |
追記
住宅宿泊事業法においても、以下のような通知が平成29年10月27日に消防庁より出ています。
※詳細は、別の記事で解説いたします。
2.防火管理者の設置
防火管理者とは、多数の人が利用する建物などの「火災による被害」を防止するため、
旅館、ホテル、簡易宿所などの宿泊施設は、特定防火対象物であり、表のとおり、収容人数30人以上、又は床面積が300㎡を超えると、「防火管理者の選任が必要」となります。
簡易宿所などの場合、面積は狭くても、収容人数が30人を超える場合がありますから、甲種防火管理者の設置が必要になる場合があります。
〈防火対象物と防火管理者の資格区分〉
用途 | |||||
---|---|---|---|---|---|
特定用途の防火対象物 | 非特定用途の防火対象物 | ||||
難困難施設(避難することが困難な者が入所する社会福祉施設等)が入っている防火対象物 | 左記以外(ホテル旅館はこの区分に該当します) | ||||
防火対象物全体の 収容人員と延べ面積 | 10人以上 | 30人以上 | 50人以上 | ||
すべて | 300m2以上 | 300m2未満 | 500m2以上 | 500m2未満 | |
防火対象物区分 | 甲種防火対象物 | 甲種防火対象物 | 乙種防火対象物 | 甲種防火対象物 | 乙種防火対象物 |
資格区分 | 甲種防火管理者 | 甲種防火管理者 | 甲種又は乙種防火管理者 | 甲種防火管理者 | 甲種又は乙種防火管理者 |
※上記の基準から、旅館業の場合、300㎡未満で、かつ収容人数(従業員も含む)が29名以下であれば、基本的には防火管理者の選任の必要はありません(※複合施設など例外あり)
〈テナントの防火管理者の資格区分〉
区分 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
甲種防火対象物のテナント | 乙種防火対象物のテナント | ||||||
テナント部分の用途 | 特定用途 | 非特定用途 | すべて | ||||
避難困難施設 | 左記以外 | ||||||
テナント部分の収容人員 | |||||||
10人以上 | 10人未満 | 30人以上 | 30人未満 | 50人以上 | 50人未満 | すべて | |
資格区分 | 甲種防火管理者 | 甲種又は 乙種防火管理者 | 甲種防火管理者 | 甲種又は 乙種防火管理者 | 甲種防火管理者 | 甲種又は 乙種防火管理者 | 甲種又は 乙種防火管理者 |
以上、ホテル旅館等の防火管理者の設置義務についてでしたが、ちなみに防火管理者は講習で取得可能ですが、※甲種防火管理者の資格は2日間、乙種防火管理者の資格は1日間の講習を修了することで取得できます。
→東京都については、次のとおり実施しています。
防火管理者の責務
防火管理者は、日常の火気管理や消防設備の維持、消火訓練や避難訓練を実施する責務があり、防火管理者の主な業務は以下の通りです。
- 消防計画の作成
- 消防計画に基づく消火・通報・避難訓練の実施
- 消防設備、消防用水、消火活動上必要な施設の点検整備
- 火気の使用、取扱いに関する監督
- 避難又は防火上必要な構造・設備の維持管理
- 収容人員の管理
→旅館業・民泊と消防法❸ 防火管理者と消防計画(後編)に続きます。
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